忘却された歌

ジャワの東端バニュワンギという地方に伝わる Genjer Genjer という民謡がある。かつて Lilis Soeryani という歌手が歌い大ヒットした以外に、1960年代にはインドネシア共産党傘下の女性団体(Gerwani)とか農民団体(BTI)などが抑圧される農民の歌として盛んに歌った。そのため、1965年以降の共産党狩り、共産主義からインドネシア共和国を「救った」ことをその正統性の一つとするスハルト政権下では、「共産主義の歌」という烙印を押され長らく「忘却」されていた。

1998年以降、歴史の見直しが曲りなりにも進む中で、この歌についてもあちこちで触れられるようになった。Lilis Soeryani の CD はないようなのだが、おそらくカセットかアナログ・ディスクから採ったmp3音源はネットに転がっている。1960年代に殺された左派女学生が化けて出て復讐するというB級ホラー映画 Lentera Merah にも使われている。

この歌を Dengue Fever というバンドがカバーした。40 Years of Silence: An Indonesian Tragedyという映画の挿入歌らしい。

早速、Dengue Fever のCDを買ったのだが、あわてていてそのCDに肝心の Genjer Genjer が入っていないことに気付いていなかった。それどころか、amazon.co.ukからmp3ダウンロード販売しかしてなかった…。

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Dengue Fever というバンドは、ロスを拠点としており、カンボジアン・ポップにサイケデリック・ロックを加えた音楽を演奏している。ボーカルの Chhom Nimol はカンボジア人。CD自体はなかなか良い。間違って買ったようなものだが、こういう間違いは嬉しいものだ。

Genjer というのは、日本語名だと「きばなおもだか (黄花面高)」とか「ぬまおおばこ(沼大葉子)」というらしい。ラテン語名だとLimnocharis flava。若葉や花を食用にする(とは言っても僕は食べたことがない)。

Genjer Genjerの歌詞(ジャワ語)は以下の通り。

Genjer Genjer Lyrics
(written by: Muhammad Arief)

Gendjer-gendjer nong kedo’an pating keleler
Gendjer-gendjer nong kedo’an pating keleler
Ema’e thole teko-teko mbubuti gendjer
Ema’e thole teko-teko mbubuti gendjer
Oleh satenong mungkur sedot sing toleh-toleh
Gendjer-gendjer saiki wis digowo mulih

Gendjer-gendjer esuk-esuk didol neng pasar
Gendjer-gendjer esuk-esuk didol neng pasar
Didjejer-djejer diuntingi podo didasar
Didjejer-djejer diuntingi podo didasar
Ema’e djebeng podo tuku gowo welasar
Gendjer-gendjer saiki wis arep diolah

ゲンジェル・ゲンジェル、水辺に生えている
ゲンジェル・ゲンジェル、水辺に生えている
子供たちの母親がゲンジェルを摘みにくる
子供たちの母親がゲンジェルを摘みにくる
籠一杯に、若芽を選って
ゲンジェル・ゲンジェル、さあ持って帰ろう

ゲンジェル・ゲンジェル、朝には市場へ
ゲンジェル・ゲンジェル、朝には市場へ
きれいに揃えて、束にして、売られる
きれいに揃えて、束にして、売られる
若い母親たちがゲンジェルを買い、買い物籠で持ち帰る
ゲンジェル・ゲンジェル、さあ料理をしよう